研究概要

RESEARCH

水溶性高分子のゲル化と相分離(実験)

メチルセルロース(MC)は,天然の植物由来のセルロースを原料として工業的に生産されている両親媒性高分子の代表例の一つである.MCが有する親水性と疎水性との微妙なバランスにより,常温では透明な水溶液となっているが数十度への加熱により可逆的にゲル化と下限臨界共溶温度(LCST)型の相分離を起こす.高分子自身の構造を改変することなくLCSTを制御する方法として,塩類を添加することによる塩析および塩溶効果が知られている.通常,一種類の塩は,塩析か塩溶のどちらか一方の効果しか示さない.本研究で用いたテトラフェニルホウ酸ナトリウム(NaBPh4)は,添加濃度に応じて塩析から塩溶へと効果が逆転するという特異な現象を示した(図1の中図の青線).これは, BPh4-アニオンが有する「多点会合性」により,少量添加した際(図1の左図)と多量添加した際(図1の右図)とでは,MCの疎水性セグメントとの会合の様式が異なることが原因と考えられる.詳細は,M. Shibata, T. Koga, K. Nishida, Polymer, 178, 121574 (2019) を参照.

図1
図1:テトラフェニルホウ酸ナトリウム(NaBPh4)の多点会合性により(左右の模式図),下限臨界共溶温度(LCST)が塩析から塩溶へと逆転することを示す(中央図の青線).また,NaBPh4の添加はメチルセルロース(MC)鎖同士の会合を阻害しゲル化温度を上昇させる(中央図の黒線).