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多分岐Poly(N-isopropylacrylamide) 水溶液:多分岐構造と協同水和の競合

多分岐構造を有する高分子は,多数の分岐点と末端基を有し,線状の高分子の溶液とは異なる相挙動を示すことが知られています.多分岐poly(N-isopropylacrylamide) (PNIPAM)水溶液の曇点が分岐数の増加に伴って低下することが報告されています. 本研究では,線状PNIPAM水溶液の相図研究において提案された高分子の協同水和に基づく理論模型を,多分岐高分子水溶液に拡張し,水和の協同性が分岐点において阻害されるという仮定のもと,相図の理論計算を行いました(下図).報告されている相図の実験結果と定性的な一致を得ました. また,多分岐高分子は多数の分岐点と末端基を有し,これらの親水・疎水性が相挙動に大きな影響を与えうるため,分岐点間の高分子鎖だけでなく,分岐点や末端基の水和も考慮し,相挙動に及ぼす影響について調べています.

図3
図:多分岐高分子水溶液の相転移温度(バイノーダル点)の分子量依存性の理論計算結果.多分岐高分子の世代数Gを変化させ,結果を重ねてプロットした.

メチル化ポリロタキサン水溶液の熱誘起ゲル化の熱・統計力学的理論研究

環状分子を線状高分子が貫いた包接錯体はポリロタキサンと呼ばれ,環状分子は高分子鎖に沿って移動,回転することができ,この環動性を活かした新規機能性材料の開発が盛んに行われています.環状分子のメチル化により水に可溶なポリロタキサンが合成され,この水溶液は温度上昇によりゲル化を示すことが報告されました.本研究室では,この熱誘起ゲル化について,環状分子の水和・脱水和とその環動性による高分子鎖上での凝集体形成,及び架橋点形成を考慮した熱・統計力学理論を構築し,微視的な架橋構造と相図などの巨視的物性の関係を分子論的に理解することを目指しています.

図1
図1:水中におけるメチル化ポリロタキサンの熱可逆ゾル・ゲル転移の理論計算と実験データ(T. Kataoka, M. Kidowaki, C. Zhao, H. Minamikawa, T. Shimizu, and K. Ito, J. Phys. Chem. B, 2006, 110, 24377-24383)の比較.(H. Kojima and T. Koga, Macromolecules, 2016, 49, 7015-7024)

PNIPAMゲルの共貧溶媒性

本研究室では,水中におけるPNIPAM架橋ゲルの高温凝縮型の体積相転移を水和の協同性という観点から研究してきました.一方,PNIPAM架橋ゲルは温度だけでなく溶媒組成にも敏感に応答し,水/メタノール混合溶媒中において再帰的体積相転移を示します.このように良溶媒を混合すると貧溶媒になる現象は共貧溶媒性と呼ばれています.この分子機構を解明するため,協同的水和とPNIPAM鎖への水素結合によるメタノール吸着の競合機構を考慮して会合溶液理論をもとに理論モデルを構築し,実験結果を説明することに成功しました.再帰的転移は水/テトラヒドロフラン,水/ジメチルスルホキシドなどの混合溶媒中においても確認されているので,これらの統一的理解を目指して,溶媒間会合などを考慮した理論を構築し,研究を行っています.

図2
図2:水/メタノール混合溶媒中におけるPNIPAM架橋ゲルの膨潤曲線の理論計算と実験データ(S. Hirotsu, J. Chem. Phys., 1988, 88, 427)の比較.水-高分子,メタノール-高分子間の競合的水素結合を考慮した理論計算による膨潤比を線で,実験データを記号で示した.異なる3つの温度における膨潤比を重ねてプロットした.(H. Kojima and F. Tanaka, Soft Matter, 2012, 8, 3010-3020)