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研究内容

多くの高分子材料では,分子レベルから巨視的なスケールにわたって階層的に高次構造が形成され,これらが系の物性や機能に大きな影響を与えていると考えられています.このような系の物性を制御したり,新たな機能を発現させたりするためには,一次構造を精密に制御するだけでなく,高次構造形成機構とそのダイナミックスの分子論的メカニズムを理解し,制御することが重要です.このような観点から,基礎物理化学分野では高分子系における構造形成とダイナミックスに関して統計力学理論および計算機シミュレーションによる研究を行っています.

オリンピックゲルの構造と物性

オリンピックゲルとは,多数の環状高分子がオリンピックのマークのように連結してゲルとなっているような物質を指します. オリンピックゲルは高分子の絡み合いを解析するためのモデル物質として期待され,シミュレーションによって解析しようとする試みが多くなされています. オリンピックゲルの特徴は物理架橋や化学架橋によらずにゲルが構成されている点で,これによりオリンピックゲルに特徴的な物性が発現すると考えられます. 本研究室では粗視化分子動力学法を用いて,オリンピックゲルの構造と物性の解明に取り組んでいます.

図1 図2

シミュレーション,インフォマティクスによる高分子材料の物性予測

実験と理論を両輪として発展してきた自然科学において,近年「計算科学」が大きな役割を担いつつあるが,特に材料開発においては,「データ科学」を活用した「マテリアルズインフォマティクス(MI)」が注目を集めています. MIでは,所望の物性値(ガラス転移温度,屈折率など)を持つ物質はどのような条件,組成で合成すればよいかを機械学習を用いて予測します. 高分子材料にMIを適用する「ポリマーインフォマティクス」はまだ黎明期にあり,課題が山積していますが,当研究室ではポリマーインフォマティクスの確立に向けた取り組みも行っています.

図1

テレケリック会合高分子のシア・シックニングの分子機構

水溶性高分子の両末端を疎水基で修飾したテレケリック会合高分子は,疎水会合による架橋点が有限時間で組み替えることが可能なネットワークを形成することにより系のレオロジー挙動を劇的に変化させるので,古くから,粘性調節剤や増粘剤として塗料,インク,医薬品,化粧品などの幅広い分野で用いられてきました.我々は,このような会合高分子の示す最も特徴的な粘弾性的性質であるシア・シックニング現象を分子動力学(MD)シミュレーションにより初めて再現することに成功し,その分子論的機構を明らかにしました.

図1
図1:(a) MDシミュレーションにより得られた非線形定常粘性率η.粘性率ηが剪断速度と共に増加するシア・シックニング現象を示している.(b) MDシミュレーションにより得られたシア・バンディングを示すスナップショット.

感熱性会合高分子の階層構造形成とレオロジー

Poly(N-isopropylacrylamide: PNIPAM)は,31℃付近でコイル・グロビュール転移を示す感熱性高分子として知られており,幅広い分野で用いられています.我々は,PNIPAMの両端を疎水基で修飾したテレケリックPNIPAM(tel-PNIPAM) 水溶液の中性子散乱測定結果の理論構造解析を行い,昇温とともにPNIPAMの脱水和に起因する凝集が進行し,階層的に会合構造が形成することを明らかにしました.更に,この構造変化に伴う劇的なレオロジー挙動の変化を,我々が独自に発展させてきた「組み替え網目理論」をPNIPAMの強い感熱性を取り入れて拡張することにより,理論的に説明することに成功しました.

図2
図2:(a) 中性子小角散乱実験の理論解析から得られたtel-PNIPAMの階層的会合構造.(b) tel-PNIPAM水溶液の動的粘弾性測定結果の温度依存性.記号は実験結果,実線は拡張された組み替え網目理論の結果を示している.